書籍
僕のところへ、お椀を求めに来られる方に、まだ小さなお子さんを連れたお母さんが増えている。
子育て中の女優さんが、漆のお椀を使っていたりするのが雑誌で紹介されたりしているからだろうか。
胸に抱っこした、まだ乳を飲んでいるくらいの子に、何種類かのお椀を持たせて、「これがいいかな」「さっきのかな」なんて話しかけている。
実はいま、お母さんたちのあいだでは、ほんものの漆のお椀を子ども用に選んで使わせるというのが、小さなブームなのだ。
古い習慣で、お食い初めに漆椀を使わせるというのがあるけれど、どうせなら、少し大きめでも大人になるまで毎日使えるのにしませんかと、おすすめする。
子どもたちはとても正直で、いつもと同じお味噌汁でも、「お母さん、今日のご飯おいしいね」なんて言ってくれるらしい。
少し値段は高いけれど、漆のお椀を使う最大の理由は、食べ物をおいしくいただけるということだ。
おいしいから、どんどん食べてくれる。
「それから、このお椀が一個あることで、食卓で子どもたちと会話ができたりするんです」と、あとから報告に来られる方も多い。
毎日プラスチックの食器を使って育つのと、天然素材のよいものを使って大きくなるのとでは、ずいぶん違うのではないだろうか。
子どもの育っていく環境にも、石油化学製品や添加物いっぱいの食品が、あふれている。
たった一個のお椀がきっかけになって、そんな状況を少しずつ変えてくれるような気がしている。
(北国新聞 2009)